2012年10月29日月曜日

オーファムの研究日誌


 一体誰が、何の目的でこのような世界にしたのか……あるいは自然発生的に起きた天変地異のようなものなのだろうか……ブリアティルトは刻碑歴997年1月から1000年12月31日までのきっかり三年間を、何度も繰り返している。
 この事実に気づいた僕は、ガラハを救う手がかりが得られるのではないかと期待して、この時空の捻じれの解明に取り組む事となった。

 なによりもまず、そのような不可思議な現象が現実に起きているのかを自分の目で実際に確認するため、歴史の繰り返しを"観測"しなければならない。
 この観測において最も難航したのは、繰り返される歴史、つまりループ時空がどのような構造を成しているのかを、予め正しく理解した上で観測を行わなければ成功しないという点である。時空という不確かなものを人の脳で認識するために必要なフォーマット化は当然必要で、しかしそれは言わば色眼鏡で色彩を観測するのと同義でもある。
 正しい色の眼鏡を選ばなければ、観測対象が本当は何色なのかがわからない。

 当初僕はこのループを螺旋状の変形時空であると想像していたのだが、この誤った認識が研究の当初において多少の遅延を生じさせてしまったのは認めざるを得ない事実である。
 正しくは観測の結果も示す通り、厳密には時空は繰り返しているわけではなく、その数だけ増えているのだった。螺旋構造ではなく、枝分かれしている。また、枝分かれした後に刻碑歴が1001年を超えた後も収束せずに、それぞれが分岐したまま存在している。
 要するに、ループしているのは世界ではなく、世界に生きる人の時間なのである。実際には、世界は刻碑歴997年1月を境に増えているだけであって、繰り返されているわけではない。何らかの条件を満たした者が、刻碑歴1001年を迎える事なく、強制的に新しい(枝分かれした)時空の刻碑歴997年にその身体ごと移動しているというのが正確な認識だ。むしろ「人という存在が時空から外れる」事によって、新たな時空が生まれている、という可能性もある。これは単に因果性のジレンマでしかないので、そういった事は他の真面目な学者にでも任せようと思う。
 時空、つまり宇宙を含む世界そのものが三年ごとに増えているというのは些か恐ろしく感じるが、これに関しては我が人の身ではどうする事もできないし、どうなろうと知った事ではないので、これもまた気にしないでおく。

 ここで僕が気にしなければならないのは、この分かたれた時間軸を(強制的にしろそうでないにしろ)移動する術があり、実際にループする三年間を同じ身で繰り返している者が数多く存在する点である。恐らく鍵は黄金の門にあると思われるが、あれは以前散々調査したがはっきりとした事はわからずじまいだ。

 とは言え、枝分かれした時空(平行世界と言い換えても良い)の観測にまで成功した現時点では、多少強引な手法もやむなしとすれば移動自体はそれほど問題にはならない。行き先さえわかれば行く手段はいくらでもある。

 そうして僕は肉体を捨て魂だけを平行世界へ飛ばす秘術「輸魂の法」を編み出した。

(第三期 オーファム著)

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